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October 20, 2013

SF

E288先週(7〜12日)は怒涛の一週間だった。
月曜〜土曜の間に講演/講義が5回、それも筑波宇宙センター、東工大、米子、名古屋、京都と場所もバラバラ、ちょっと疲れた。
怒涛の最後が京都SFフェスティバル(京フェス)の夜の合宿だったんだが、今回は京フェスの感想や思ったことなど。

京フェスは、京大のSFクラブが主催し旅館「さわや」を借りきっての合宿形式で行われる。大学生が主体となるためか、SF大会よりも小規模だが、参加者の年齢層が若い。このためか、扱っているSFの題材が、ラノベやファンタジー寄りになっていて、ハードSFなどはほとんど無かった。この内、ハードSFが少ないのは、年齢層が若いせいじゃなくて、最近の傾向かもしれない。SF全般に渡って、ファンタジー色が強くなっているような気がする。

魔法や魔物の登場するファンタジーSFが多くなっているのは、「現実の科学・技術では、既に全て決まっていて、不思議なことや新たにできるような事は何も残っていない」と言う誤解が多く広まっているせいじゃないかな?
ところが、現実には、科学でも技術でも不思議なことや未解決の問題が山のようにある。
例えば「宇宙の果ては光速の3倍程度で広がっている」とか「光速より速く広がっている宇宙の果てから、光速の光が地球に届く」とか「遠くのものが小さく見えるのは、50億光年くらいまでで、それより遠いと逆に遠くのものが大きく見える」などの『不思議な現象』がある。これらは一般相対性理論から導出できるもので、科学をちゃんと判っていたら『不思議でも何でもない』現象だ。ところが、京フェスの参加者に振ってみたけど、ほとんどの人が知らなかった。
さらに、現時点での科学では理由も原因も判らない現象、例えば『最初の星は、どうやって生まれたか?』とか『ダークエネルギーとは何か?』と言った現代科学の謎も多くの人は知らなかった。

つまり、魔法や魔物を扱ったSF作品は、「本当の科学・技術を判っていない者が、科学や技術だと『不思議や新しいことはできない』と誤解している人のSFだ。
そもそも、ファンタジーSFなどで良くある「世の中には科学で割り切れない事もある」なんて台詞は、まるで駄目だ。現状の「科学で割り切れない事」など山ほどあることは、当の科学者が一番良く知っていることだからだ。その上で、現状の「科学で割り切れないこと」の解明を試みることこそが科学の科学たる所以なのである。

だからと言って、科学に厳密だと言う「ハードSF」が一番良いかと言うとそうでもない。正直、「ハードSF」と自称するSFは、ほとんどが、リアリティとは名ばかりの、できて当たり前のことしか出てこない物語になっている。これは多くは小説家そのものよりも「ハードSF原理主義」と言われる読者による批評が原因ではないかと私は思っている。
ハードSFに出てくる事象に対して「リアリティがあるかないか」の判断をする場合、本来、科学的・技術的分析によって行うべきだ。しかし、その判断が「現実に実現しているか否か」にすり替えて行われることが多い。

これが科学的・技術的な「リアリティがあるかないか」のみならず、人間的・社会的要因にまで「現実に実現しているか否か」で判断し、その上、その判断が矮小になっている。
抽象的な言い方だと判りにくいので、具体的に言うと、「ロケットを作ろうとしたって、燃料が手に入るわけがない」とか「個人で宇宙開発をやろうにもお金がないのでITで儲けた人に相談したら金を出してくれた・・・なんて、都合の良い事が起こるはずがない」「ロケット・エンジンを作ろうと思っても、情報は秘密だから手に入るわけがない」「反物質ロケット作ろうと思って、反物質の世界的権威の科学者に相談しても、門前払いを受けるに決まっている」とまあ、以上のようなものである。
これらは、いずれも「科学的・技術的」ではなく、「人間的・社会的」にリアリテイがあるかないかの判断になる。上記の例の場合、SF小説や漫画などでは「リアリティが無いから、できるわけない」として、現行書く前の段階で、編集者に止められる(と、知り合いのSF作家や漫画家から聞いた)

ところが、実際は、上の例は、全て可能だ。と言うか、私自身が、やってできた。
つまり、現実でできるレベルのことすら、SF小説では「リアリティがない」とされているのだ。これでは、本当に夢のような事をSF小説の中で見せる「センス・オブ・ワンダー」を出すことなど、夢のまた夢だ。センス・オブ・ワンダーを失ったハードSFなどなんの魅力も無いのだが、こう言った「行き過ぎたリアリティ批判」がハードSFの首を絞めているんだと思う。
まあ、私も、京フェスにおいて小川一水さんの作品の科学的成立性への突っ込みをしたので、「行き過ぎたリアリティ批判」の片棒を担いだので、あまり言えないが・・・(今後は、SF大会や京フェスなどのSF関連の集まりでも、「行き過ぎたリアリティ批判」を行う主旨のイベントであれば、招待は断ろうかと思う・・ 良い作品を褒める主旨なら招待を受けるが)

もう一つ、ファンタジーSFとハードSFとに通じて思うのは、「魔術や技術を他人から得る」と言う受け身の姿勢だ。
例えば、魔術なら呪文を師匠なり他の誰かから教えてもらう、科学や技術なら進んだ科学を持った宇宙人に教えてもらうなり、古代の超文明の遺跡から発掘すると言うことだ。自分自身で新しい魔術なり技術を創りだすことなど、ほとんどない。

私は、新しい魔術を創る方法など知ったこっちゃないが、少なくとも新しい科学や技術を創ることはできる。ところが、SFの中で「自分自身で科学や技術を創る」ことができていない現状を考えると、よほど、理科教育が間違っているのか、日本の歴史的文化面が未だに遅れているのかと、心配になってしまう。

高校までの理科教育は、ほとんど全てが受け身で、既存の知識を得るだけになっている。授業の中の「実験」も、実験とは名ばかりで、できて当たり前の現象の再現にしかなっていない。大学になれば、受け身ではなく能動的な研究をするべきなのだが、高校までの教育が足を引っ張って、なかなか能動的にはなれない。
本来、科学にしろ技術にしろ、それまで無かった理論なり技術を創ることこそが重要なんだが、それが理科系教育で子供たちに教えられていない。
その上、日本の学問は科学に限らず歴史的に、古くは中国の、近代以降は西洋の進んだ学問を輸入し、取り入れることが主体で、自ら生み出すと言うことが少なかった。その結果、役に立つ科学・技術は自らが創り出すのではなく、受け身で教えてもらうと言うのが一般的な認識になってしまっている。

SFの中ですら、「進んだ科学・技術は教えてもらうもの」と言う状態じゃ、やはり自ら「センス・オブ・ワンダー」に挑戦するようなワクワク感を伝える事ができない。

私は、SFは「自らが科学技術に正面から挑戦する」と言う「センス・オブ・ワンダー」を伝えなければならないと思っている。「月世界旅行」がアポロを生んだように、「海底二万マイル」が原子力潜水艦を生んだように。

私がSFの小説や漫画の科学・技術考証に手を貸すようになったのは、こう言った「自らが科学技術に正面から挑戦する」事が、ワクワクするほど楽しい事を伝えたかったからである。
ところが、多くの場合、私の考えたSFガジェットは、宇宙人が地球に攻めてくる場合に用いられたり、過去の超文明の遺跡で見つけられたりと言った具合に使われている。そもそも、SFなのに小説・漫画のテーマが、人間ドラマだったり、権力争いだったり、予算の取り合いや特許訴訟だったりする。そんなテーマのSFなんて読みたくもない(だから、最近のSFは読んでない)

以前は、私自身無名だったので、誰が要望しても、どんな内容であっても、SFの科学・技術考証を引き受けていた。しかし、手伝った作品が星雲賞受けたのも幾つかあるように、それなりに実績ができたので、選り好みをさせてもらう。
今後は、次の事項に該当するSF小説・漫画・アニメの科学・技術考証なら引き受けよう。

・主人公は、主体的に人類は自らの意思で、自ら生み出した科学・技術で宇宙へ乗り出す。
 できれば、太陽系外・恒星の世界へ
・テーマは、純粋な科学・技術への挑戦
 良い例:「重力の使命」「龍の卵」「マッカンドルー航宙記(除く終盤)」
・人間ドラマは入れない。
 ・未熟な主人公が単純なミスをしたり、引きこもったりしない。
 ・権力争い、訴訟、裁判、特許などの紛争を入れない。
 ・政治、予算獲得など入れない。
 ・妬み嫉妬や恋愛感情を入れない。
  (多少のラブコメは良いか・・)
・必要な科学理論・技術は人類自身が創りだす
・人類に超技術を教えるような宇宙人は出ない。
 ・対等の宇宙人とのファーストコンタクトは可
・魔物も出ない。
・宇宙戦争は起きない。独立戦争もしない。宇宙海賊も出ない。
・人類は滅びない。太陽系の危機も起きない
 主人公は追い立てられて宇宙へ出るのではない。
・減点方式でリアリティを語らない。
 ・「どうせ無理。できるわけない」は NG。
 ・ハードSFであっても、少なくとも一つの「嘘」を許す。
・科学技術を肯定的に語る。
 ・陰々滅滅にならない。

以上、言ってみれば、当たり前のSFだろ?
でも、今、こんなSF無いんだぜ。
この条件だと、結構有名な作家でも「ストーリーを作れない」と言うし、有名SF出版社の編集でも「出版が難しい」と尻込みする。

誰か、この条件で、SF書く人いないか?

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