新しい物を作るには
最近、ツィッターを始めた。
色々書いているのだが、ツィッターだと内容が流れるし、一回の書き込みが140文字以内なので、どうしても切れ切れになるので、ブログにまとめてみた。ツィッターに書ききれなかった部分も補足してある。
新しい物を作るときは必要最小限で機能するものを作って、そこから連続的に大きくしないといけない。
飛行機は空力の揚力が面積に、質量が体積に効くので、それぞれ寸法の2乗、3乗に比例する。つまり小さいほど有利なので、飛ぶと言う機能を実現するにはいくら小さくてもOK。ゴム動力の模型飛行機を実現すれば、じょじょに大きく速くしていけば、連続的にジャンボジェットまで進化させられるわけ。
ロケットの場合、空力は抵抗になるので、寸法的には大きい方が良い。他にも制御用コンピュータとかが必要なので、必要最小限の構成が意外と大きくなる。現在ではペガサスが軌道投入できる最小ロケットか? 最小構成のロケットですら、相当大きいので国家レベルの予算が無いと開発を始める事ができないのが現状。
とにかく、全く新しい物を作るとき、
(1)機能に必要最小限の構成の大きさ重さ・実現性は何か?
(2)大きく重くするのは有利に働くか不利に働くか?
(3)より大きく重く、高性能にするには連続的に成長できるのか?
これらを見極めないといけない。
良く誤解されるのだが、最初に作るものは「最小限の機能」だけあれば良い。「最小限の性能」ではない。飛行機の場合だと、「最小限の機能 = 飛ぶこと」であり、「最小限の性能 = 人が乗れること とか 荷物がのること・など」だ。「最小限の性能」は「役に立つ」と言い換えても良いかもしれない。
役に立つような性能を負荷すると、どうしても大きく重くなる。作るのが大変だ。最初は、機能だけを成立させ、徐々に性能を高くしていき、役に立つレベルまで進歩させる。
最初の「最小限の機能」だけの物作りが、もっとも一番難しい。
本当にその構成で成立するのか。実際に作ってみるまで判らない。
実際に作ってみなければ、ならない。
どんなに良く考えても、見落としがあるかもしれない。
見落としがないことを確認するために、最初の「最小限の機能」のものを作る。だから、最初のものは、一通りの機能が必要だ。中途半端じゃ駄目だ。だからと言って役に立つほどの性能もいらない。
シミュレーションで良いと言う人も居るだろう。だが、シミュレーションは、頭で考えた事をコンピュータで確認するだけだ。「見落とし」はシミュレーションでも見落とされたままだ。
最初の「最小限の機能」だけの物を、どんな構成にして、どうやって機能を実現させるかを考えるのは、さらに難しい。
世界で最初のものであれば、なにも参考になるものがない。だから、大変だ。当たり前だ。全ての機能・構成を全て自分の頭の中で構築しなければならない。
日本で最初のものも大変だ。国内には参考になるものが無いから、海外に学びに行かなければならない。でも、そう度々海外に行くわけには行かない。だから、自分の頭で考えることも多い。
企業・組織・大学など組織で最初のものも大変だ。組織外に聞きに行かなければならない。
個人では?
本来、「最小限の機能から徐々に成長させるもの作り」は世界初だけでなく、日本初、組織初、個人初と縮小しながら「再発明」され続けなければならない。
ところが、「最小限の機能構成を自分で考える」と言う事をすっ飛ばことが多い。「最小限の機能構成を自分で考える」には時間がかかるのだ。また、もし間違えると実際にものを作って失敗すると、お金が余計にかかったり、危険だったりする。
だから、「教育」と称して、その辺を回避して、「教え」てしまうことが多い。最初から「機能して当たり前の構成」を作らせるだけで「もの作りの教育」とする。そもそも、そう言った「教育」の機会さえ無い場合が多い。
頭をしぼり、「必要最小限の機能の構成」を考えることは厳しい。でも楽しい。
その厳しさと楽しさは、やった者でないと判らない。
「やった者」でないとさらに、もっと新しいことを作ることもできない。
でも、なかなか、それが伝わらないんだよね。
The comments to this entry are closed.
Comments
「やった者でないと判らない」というのは、当たり前のことのようで難しい問題ですね。
私は個人的にモノ作りをしているのですが、作ったモノを見せても「ああしろこうしろ」と言われるばかりで、モノ作りそのものに興味を持ってもらうのは、とても難しい。 私のロボットは内骨格多軸形なんですが、見た人の多くは「外骨格にすればいいのに」と言います。 「外骨格にすると、どう良いのか?」と訊くと、「売ってるのは、みんな外骨格だから」と答えるだけ。 外骨格は部品を減らし、量産するのには向いていますが、いろんな部品を組み込んで実験したりハードの調整をおこなうには向いていないので、そう説明はするのですが、不服に思われるばかりで・・・。 「こんなの球体関節使えば、チョコチョコっとできるのに、わざわざ難しくしている」と言う人も多いです。 球体関節は見た目はスッキリしていますが、駆動するのが難しくて(それこそ、前に書いた「球体超音波モーター」くらいしかない)作るのも使うのも制限が大きいです。 しかし、説明しても理解してくれない人に「やってみればわかる」と勧めても、「そんなのはオレのやることじゃねえ。オマエが作れ」という考えが根強いので、一歩を踏み出してくれることもなく・・・。
教育の面からは、天才を対象にした「才能の発掘,才能を伸ばす」とか、万人を対象にした「誰でもが興味を持つようにする」といった2極化だけでなく、「普段からモノを作っている人に、高度な事を教えてみる」というアプローチというか、テストケースを試してみるべきじゃないかと思います。 授業以外でもモノを作っている人にとっては、ヒントを教えてもらってるだけであって、答えを教えられてることにはならないでしょう。 「手応えをつかむ」ということがどういうことか、わかる人は小学生でもわかるし、「自分でできるようになる」ということが最大の関心事なのだから。(そんな人間は、天才よりも少数派なのかもしれないが、体育の授業でしか野球をしたことのない人が、プロ野球選手になれるとは思わないでしょう)
私の考えているモノ作りの形は「源素知能」で、才能以前の、人工知能に近い形です。 考えて、実行して、結果を受け止めることを繰り返し、このループを何回転もすることによって、より高度なものに、あるいは自分の求めていた答えに近づいていく。 そのようなアプローチのできる場も必要だと思います。
ただ、この形では「自分がいくら高度な思考を巡らしても、自分で実行して確かめないのでは、知能を放棄しているのも同然」ということになってしまうので、教育のあり方としては賛同されることはないでしょう。(才能を必要としないというところも、「そんなのバカがやるもんだ」と中傷されるかな) やはり、同人会のような感じがベストなのかも。
Posted by: 美村蔵親 | June 27, 2010 10:10 PM
全くその通りですね。
しかし、教育の方は、本当のところ、私自身も何がベストなのか悩んでいる最中です。
あちらが立てばこちらが立たずと言うところもありますが、そもそも、こう言った教育自体が必要な事を、それを許可する部門に話が通りません。
そう言った部門の人がやったことが無い人ばかりなので、「やった者でないと判らない」ことが判らないわけでありますから・・・
Posted by: 野田篤司 | June 28, 2010 10:33 PM
金沢では面白い第2部、ありがとうございました。
ところで、
>ジャンジェット
ボーイング747 Jumbo Jetのことでしょうか?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0747
Posted by: みーや★ | June 29, 2010 02:13 PM
おおお!
確かに、ジャンジェットじゃなくて、ジャン『ボ』ジェットの間違いでした!!
指摘有難うございます。修正しました。
Posted by: 野田篤司 | June 29, 2010 08:38 PM
学校のような教育に関しては、私も「やったことのない人」ですね。(むしろ、誰も「モノ作り側」に引き込めていないのだから、教育としては失敗の連続か)
私はマイナーな専門学校の夜学に通っていたもので、せっかくの「専門」なのに実習のないことから、やたら自宅でモノ作りをしていました。 今でも知識や技術への渇望にとらわれているのかもしれません。 マイナーな専門学校の夜学を「優秀な成績で卒業(卒業証書とは別に表彰状がもらえます)」しても、社会的には「暇人」とか「自己満足」とか言われて、「最終学歴としては認められない」というのがショックだったことも・・・。
教育は、才能の有無や家庭が裕福かどうかで決まるのではなく、やる気のある人に受けさせることが第一(ベストではなく基本という意味で)だと思います。 若い人達に、そういうチャンスを与える場であって欲しい。(私の偏見を含みますが、ひらめきに頼る人より愚直に積み上げていく人や、貧乏で子供の頃から身近なものを手作りしていた人、技術を身に付けて貧困から脱出しようとしている人のほうが、モノ作りには向いていると思う。でも、その前にモノ作りに対するイメージもカッコイイものにならないと・・・「金出せば何でも買えるのに、自分で作るなんてビンボーくせえ」なんて言われて、実際、技術者の収入が低い状況では誰も目指さない?)
Posted by: 美村蔵親 | June 29, 2010 10:15 PM
ゴダードの液体燃料ロケットの開発過程にも通じますね
「最小限の機能」=とりあえずロケットエンジンで離陸させる=あの形
→「徐々に大きく」=現在のロケット(の最小構成)
・・・・でこれがA-4となりそのまま現在に至る・・・と
Posted by: てつ | July 03, 2010 10:34 AM
美村さん、てつさん、どうも。
レス遅れて申し訳ないです。
「教育は、< 中略 >、やる気のある人に受けさせることが第一」は、全く、その通りだと思います。
次の段階として、そのやる気のある人の「やる気」をそがないで、伸ばして行くのが大切ですよねえ。
Posted by: 野田篤司 | July 04, 2010 01:25 PM
「新しい物を作るときは必要最小限で機能するものを作って、そこから連続的に大きくしないといけない。」
エンジニアだけでなく、マネジメントをやっている人とか投資家、政治家にも、この基本を理解して欲しいものですね。
Posted by: 梶田秀司 | July 25, 2010 07:09 PM
梶田秀司さん、お久しぶりです。
本当に、そうですねえ。
でも、政治家にとって、「大きくて立派で金のかかっているもの」を残すことが、大事だって思っていることが矛盾を生んでいるんですよね。
Posted by: 野田篤司 | July 25, 2010 09:37 PM