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August 19, 2009

小惑星とラグランジュ・ポイント

E1661ちょっと脇道にそれてラグランジュ・ポイントの話をする。
前回の軌道シミュレーション・プログラムでは、100年後の小惑星の位置を計算させると、元々ラグランジュ・ポイント4と5に集まっていた小惑星が、ばらけてしまうと言うことを書いた。
ばらけてしまう理由は、本来、小惑星をラグランジュ・ポイントに集めている木星の引力を計算に入れていないからだ。
じゃあ、どうやれば計算に木星引力の影響を入れるかと言うのが、今回のプログラムasteroid2.rbだ。このプログラムも愛媛の実家で作った。前回のプログラムと同じようにダウンロードし、惑星や小惑星の軌道データの入っているフォルダ/ディレクトリで実行すると、木星と近い軌道半径を持った小惑星を50個だけロードし表示する。メニューの「編集」「日時の設定」を選び、目標の日時(未来に限る)を入力すると、アニメーションで動きだし、目標の日時まで計算したところで止まる。
冒頭の画像は、そうやって、100年後の惑星・小惑星の位置を計算して表示したものだ。画像の中で黒い丸は、前回と全く同じ楕円近似で計算した小惑星の位置だ。これに対して、緑色の丸は、木星引力の影響を考慮した小惑星の位置である。見て判る通り、黒い丸はラグランジュ・ポイントから外れているが、緑の丸はラグランジュ・ポイントに集まったままである。

E1662プログラム中の Radius の数値を 2.25 にすると、軌道長半径が 2.25AU 付近の小惑星を選ばれる。その100年後の位置が、2つ目の画像だ。多少ずれているところもあるが、黒い丸と緑色の丸の位置はほとんど変わっていない事が判る。これは、木星の引力の影響が積み重ならず、打ち消し合うためだ。ラグランジュ・ポイントの場合、軌道回転周期が木星と一致しているため、木星の引力の影響が積み重なるので、影響が大きいのである。

E1663Radius の数値を 2.5 にして、100年後の位置を計算したのが、3つ目の画像だ。これも黒い丸と緑色の丸の位置が異なっている。実は、これらの小惑星の軌道周期は、木星の 3分の1 だ。ラグランジュ・ポイント4・5とは逆に木星の引力は積み重なりあって、小惑星を、この軌道からはじき出してしまう。

さて、今回のプログラムがどうやって計算しているかを説明しよう。今回のプログラムはルンゲ=クッタと言う方法で小惑星の位置・速度から引力の大きさを計算し、数値積分して位置を計算したものだ。
小惑星にかかる力は、太陽の引力と木星の引力を考慮している。それ以外の惑星の引力は計算していないが、他の惑星は木星に比べて小さいので余り影響が無いと考えた。もちろん、プログラムを改造して、他の惑星の引力の影響を計算することは可能だから、興味がある人は試すと良いだろう。

E1664太陽と木星の引力を計算する時、太陽の場所は木星や小惑星の軌道の中心ではない。図に示したように、太陽と木星は、2つの共通重心を中心に互いを回っているようにした。図では大げさに描いたが、実際は、共通重心は太陽の中心から70万キロ強離れていて、太陽の表面から僅かに出ている場所だ。
70万キロと言うと大きな距離なようだが、太陽系スケールで言うとホンの僅かな距離で、木星軌道から見れば、0.1%程度だ。そのような僅かな太陽の位置のずれを考慮しないと、ラグランジュ・ポイントに小惑星は集まらない。太陽の位置のずれの計算は、プログラムの167〜169行にあるので、試しに、これらをゼロにすると、小惑星がラグランジュ・ポイントから離れて行くことが判る。
先ほどから、私は「木星の引力が影響して・・」と言ってきたが、本当は「木星の引力と 太陽の位置のずれが影響して・・」と言うのが正確だ。

プログラムでの計算ステップは、5日にしてある。つまり、小惑星にかかる引力を計算して、5日後の位置と速度を計算している。ただし、5日間同じ力がかかり続けるわけではなく、その間の変化を効率的に計算している。これが、ルンゲ=クッタと言うアルゴリズムだ。
10日後の小惑星の位置の計算なら5日ステップを2回繰り返し、100日後なら20回繰り返さす。いきなり100日後を計算するわけには行かない。
100年後なら7305回の繰り返しだし、小惑星50個なら、更に50倍の36万回以上だ。
わずか数年後の位置計算だとしても、とてもじゃないが、何十万個もある小惑星の計算などでやしない。とにかく、数値計算には時間がかかる。
私のプログラムに無駄があるが、それを治したとしても何倍か速くなるだけで、焼け石に水だろう。ruby のようなスクリプト言語ではなくて、コンパイラ言語にしても無駄だろう。抜本的には、グレープのような並列コンピュータを使わざるを得ないだろう。そこまで行かないでも、CUDAやOpenCLのようにGPUを使って並列計算するのも良いかもしれない。

でも、これ以上、数値積分プログラムを追求する気は無い。
数値積分をしなくても、楕円近似なら何年後でも、現実的な時間で小惑星の位置計算ができる。

要は、小惑星の軌道計算が十分な精度で行えれば良いだけである。
今回の積分計算プログラムで、ラグランジュ・ポイント4・5に小惑星を集めているのは、間違いなく木星の引力の影響である事が判り、楕円近似計算であろうが積分計算プログラムであろうが、少なくとも数十年程度であれば、大きな誤差が無い事が判った。だから、その範囲であれば、楕円近似計算で十分と判断できる。今回の積分計算プログラムは、それが判った時点でお役ご免。

じゃあ、なんで今回は、わざわざ今後使うつもりのない積分計算を細々と紹介したかと言うと、こういうのを限りなく改良してくと言うのが、コンピュータ・シミュレーションの入門者が陥りがちな事例だからだ。
コンピュータ・シミュレーションには、必ず誤差がある。どんなにプログラムを改良しても、誤差は残る。逆に言えば、限りなくシミュレーション・プログラムに改良する事ができて、それに応じてシミュレーションの精度は、どんどん良くなる。
頑張れば頑張るほど、精度は高くなるので、如何にも正しい事をしている気になってしまう。

だが、本来は、シミュレーションに必要な精度を見極め、それさえ達成すれば良いのである。
それを必要な精度も考えずに、闇雲に精度を限りなく高く・・・と陥ってしまうのだ。
まあ、何に使うかも判らずにシミュレーションにハマる人も多いけどね。

さて、愛媛の実家で作ったプログラムのストックも今回で終わり。
次回は、小惑星から小惑星に移る惑星間航行の軌道計算を紹介するつもりだが、これからプログラムを作らなければならない。次に暇ができてプログラムを作り込めるのが、いつになるか判らないから、次回が、いつになるかも判らない。

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Comments

はじめまして☆こんにちは!
「宇宙暮らしのススメ」を、
昨日、秋葉原で買い、今、読書中です。
創造的な本が売られていたことに感謝。
とてもたのしく読んでいます。

ラグランジュポイントは、
太陽系内にどれだけ存在しているのでしょう?
もしよろしければ、教えてください。

僕は、まるっきりバカなので・・・
木星の衛星ひとつひとつにも・・・
ラグランジュポイントがあるのかな・・・
とか考えてしまいます。

ラグランジュポイント駅から
ラグランジュポイント駅へ・・・
と空想してしまいます。

原子力発電所のような衛星だとか・・・
ロボットの宇宙開拓者だとか・・・

Posted by: アモウタビビト | September 17, 2009 at 04:58 PM

アモウタビビト さん、よろしくお願いします。

私もあまり詳しくは無いのですが、理論的にはは全ての惑星・衛星に2つずつの安定なラグランジュポイントがあるはずです。でも、その惑星・衛星よりも引力の強い別の惑星・衛星が邪魔をします。
ですから、比較的大きな惑星・衛星だけ、2つずつの安定なラグランジュポイントが、現実的に使える、つまり安定した場所として使えるラグランジュポイントがあります。
具体的には、惑星なら木星や土星に2つずつ、木星の衛星なら最大の衛星ガニメデには2つの安定なラグランジュポイントがあります。
他の惑星や衛星にもラグランジュポイントがあるはずですが、どれほど使い物になるかは未知数です。

Posted by: 野田篤司 | September 19, 2009 at 07:23 AM

木星のL4やL5には、トロヤ群(小惑星の群れ)。
L1やL2は、衛星の引力に邪魔されやすい。

と。

月と地球の軌道で、ラグランジュ点として、
安定していて使える場所はありますか?

太陽風に流されてしまいますか?

質量比とか・・・
距離とか・・・
いまいち難しくて。

Posted by: アモウタビビト | September 20, 2009 at 05:36 PM

こんにちは。

大林辰蔵氏の本を真夜中に開いて、
少し勉強しました。

太陽と地球の軌道上のL1は、
地球から100万キロ離れている。

WMAP(宇宙背景放射を調べた衛星)は、
太陽と地球の軌道上のL2を飛んでいる。
その衛星は、L2を中心にぐるぐる回っているとか・・・
その揺れ幅がどのくらいなのか、
気になるところです。月の軌道の直径ほどなのか・・・
いずれにしても・・・

太陽の高エネルギー粒子を防ぐクモの巣のような壁を
L1に作る僕の幻想は崩れ去ってしまいました。

その代わりに、静止軌道を飛んでいる衛星を
超伝導コイルでつなげて、地球を守る磁力線を作る
妄想が思い浮かびました。

スペースネックレス
http://contest2004.thinkquest.jp/tqj2004/70410/ele-space-neck01.html

人工地磁気
http://scserver2a.sc.nifs.ac.jp/yanagi/SCGP/index.htm

やっぱり地上に人工地磁気発生装置が、
一番、安上がりなのかな。

Posted by: アモウタビビト | September 21, 2009 at 04:55 PM

L1やL2は、安定ポイントと言っても、ちょっとでも外れると、だんだん外へ離れていくので、自然に小惑星などが集まることはないです。
人工衛星のように、時々スラスター(超小型のロケット)で制御する必要があります。
地球のL2は、太陽と反対側に150万キロのところです。そこを中心に数十万キロの半径で周回する軌道です。
日本では、SPICAなどの衛星が、L2へ行くことを計画しています。

Posted by: 野田篤司 | September 23, 2009 at 02:25 PM

お答え、ありがとうございました。

静止軌道の衛星たちが、
地球の放射線帯に与える影響?密度?温度?
を考えているところです。

宇宙の広大さに・・・
万里の長城も小さく見えてしまう。

月を充電池にしたいような・・・

Posted by: アモウタビビト | September 24, 2009 at 03:03 PM

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