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July 29, 2007

数学ボーイ

前のコンテンツにもあるが、2ヶ月で20冊読書した。
その最後に読んだ本が、結城浩著の「数学ガール」である。20冊の読書の内、唯一小説では無い本であった。

この「数学ガール」は、高校生の「僕」と「二人の女の子」との図書館における数学についてのやり取りを軸に、数学を啓蒙する書籍である。

私は、ハンダ付けでも書いたように、高校時代に数学部に在籍したリアルな「数学ボーイ」であった。男子校だったので、数学ガールの存在は無かったが、数学好きな高校生の実態は誰よりも知っている自信はある。

そんな私が「数学ガール」を読むと、違和感がありすぎるのだ。もちろん、図書館で数学していると女の子が二人もよって来ること自体あり得ないことは、筆者も承知の上の演出であろうが、それ以外の点でも違和感がある。

まず、数学好きの男子は、一人寂しく図書館で数学することなど無い。
私の経験では、数学好きは集まって、数学教員室や数学部の活動場所(私の高校には「部室」と言うものが無く、定期的に決まった曜日の放課後に教室を借りて活動場所にしていた)で、ワイワイ騒ぎながら数学していた。

また、「数学ガール」では、一方的に、一人から一人(または二人)に教える形式を取っていたが、実際に数学好きが集まると、一方的に教えることは無い。対象となる命題に対して、誰が最もエレガントな解法なり証明なりができるかを、勝負していた。そもそも「教える」と言う行為は、既に誰かが「正しい答えや解法・証明」なりを求めている事が前提だ。学校の授業なら兎も角、趣味としての数学好きは「既に答えの出た命題」なんかには興味は無い。答えが未だ出ていない、むしろ答えがあるかどうかすら判らない命題にこそ、チャレンジする価値があると考えていた。

最後は、どうでも良いことだが、「数学ガール」では数論が中心に書かれているが、当時の私達は、数論よりも証明や幾何学など、多分野に渡って興味をしてめしていた。「多分野」と言うと聞こえが良いが、ようは手当たり次第に手を広げて居たに過ぎない。


とまあ、「数学ガール」の批判に、このような「数学好きの高校生は一人寂しく図書館になんていないで、仲間を集めてワイワイ数学しているよ」と言っていたら、逆に私の体験の方が「そんなの聞いたことが無い」と言われはじめた。
高校時代に数学好きだった友人の話では、「誰も仲間が居なくて、一人で数学していた」と言う。また、現役の高校教師に聞いたところ「自分の教える高校には数学部は無いし、周りの学校にも活発に活動している数学部があるとは聞いたことも無い」との事だった。
私は、どうも貴重な体験をしたのかも知れないなあ。

書籍「数学ガール」の話に戻るが、本を読むうちに「何故、登場人物を三人にする必要があったのか」と疑問に思っていた。一人が教える役、もう一人が教えてもらう役なら、二人で足りる。なら、何故三人も登場させたのだろうか?

事実上の最終章である第10章「分割数」を読んで、その疑念は氷解した。
この章の命題に対し、主人公である「僕」は正面突破でエレガントな解法を求めた。
それに対し賢い女の子は突拍子とも思える飛躍的な方法を用いた。
もう一人の女の子は、余り賢くないが、地道な方法で解いた。

結局、正面突破でエレガントな解法を求めた「僕」だけが、命題を解けず、残りの二人が正しい解を導き出した。

なるほど、登場人物の三人は、数学の命題に対するアプローチの象徴であったのか!

確かに、「正面突破でエレガントな解法」は、理想的だ。だが、答えが求まらなければ、理想もエレガントも無い。
飛躍的な方法は、天才的な発想が必要だ。また、エレガントと言えないような場合も多い。
賢くない方法は、エレガントじゃない。でも、答えが出るなら、「理想的・エレガントでも答えが得られない方法」より、ずっとましである。

これらの方法の内、どれを選ぶのか、それが、葛藤でありジレンマだ。

この葛藤に共感できず、「答えが同じなら、同じようなもんだ」と言う人は、数学を理解しているとは言いがたい。

高校時代の私も、このジレンマに何度と無く突き当たった。

大学進学後、私は、数学から離れ、物理や工学に興味の対象を移していく。数学から、より俗世的な対象に移った訳だ(「宇宙」は、じゅうぶん俗世的では無いと言われるが)。
数学部の友人たちも、皆、数学以外の道を進んだ。

今の私なら、「余り賢くないが、地道な方法」に傾向しがちだ。

だが、数学の理想境を忘れはしない。
あの若く、青臭く、理想を語り合った日々を。

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Comments

数学に対する3つのアプローチ興味深く読ましてもらいました。自分の経験をそのままなぞるようなお話です。私は最初突拍子もない方法で解くのが好きでした。しかし、エレガントな方法以外は認めないことが最優先でしたので、すぐに挫折しました。まあ、ちょっと扱う数学の対象が難しくなるとまったく手も足もでなくなってしまうのです。
そうなるとエレガントな方法で正攻法で解くことを目指しました。しかしある時から、どうしてもその方法では解けない問題の比率が増えてきます。学校のテストでは時間が制限されるのでどうしても時間内に解かなくてはいけません。そのためエレガントでないからと、途中で解答方針をリセットしてやり直すなんでやっていたら全問解答など不可能です。

結局自分には数学の才能がないと自覚して、エレガントな解答を捨てる覚悟を決めました。思えばその時が私が数学を道具として使うことを決意したときでした。その決断は私の人生のなかで大きなものでありました。以後数学の問題は地道な方法で確実に解くようになりました。

Posted by: 半日庵 | August 07, 2007 at 10:01 AM

半日庵さん、
「数学の才能がないと自覚」とおっしゃいますが、「エレガントな方法と、そうでない方法を選ぶ葛藤」を理解されているだけで、少なくとも「数学というものを理解する才能」があることは間違いないと思います。半日庵さんの書いた文章中の「覚悟」と言う言葉が如実に、それを物語っています。
ただ「数学を続ける才能」と言うか「根性」が無かっただけですよね? それは私も同じで、今では私も数学を「道具」として使うようになってしまいました。

この「エレガントな方法と、そうでない方法を選ぶ葛藤」を理解しない人は、結構多いんですよね。と言うか、一般的には多数派でしょう。

先日、食事をしながら、友人(本文中に出てくる高校時代一人で数学してた人)と二人で、別の「答えが同じなら同じ事」と言う友人に「エレガントな方法と、そうでない方法を選ぶ葛藤の自体が重要なんだ」を語って居ました。
それを横で聞いていた別の友人に「端で見ていると、マニアが『絶対領域』について熱弁しているのと同じように見える」といわれてしまいました。
まあ、判らない人には判らないと言う意味では、同じようなものなのかも知れませんが・・・
(このコメント読んで、『絶対領域』の意味が判らなかった人は、ネットで検索することをお薦めしません。がっくりきますから・・・)

Posted by: 野田篤司 | August 07, 2007 at 08:41 PM

高校生の頃、数学部は存在しませんでしたが、私は数人の数学好きと、数学で遊んでいました。野田さんの環境に近かったと思います。

大学受験の当日まで、数学には相当の自信をもっていました。入試で6問出るとして4問以上完答する予定だったのに、1問完答、もう一問は一応最後までいった、という結果で、もう、だめだ、二日目の入試は行かない、などと落ち込みました。結果的に二日目の理科2科目ができたので幸い合格しましたが。あとから、聞いたら、この年の数学は非常に難しく、0点続出で、学内で問題になったそうです。なんだ、みんなできなかったのだ!

でも、大学に入ってみたら教養の数学が全然理解できず、数学科なんか目指さなくて良かった、と思いました。

ところで、「エレガントな」という言葉はやはり、矢野健太郎氏の本をお読みになった影響でしょうか?

Posted by: はかせ | August 08, 2007 at 09:44 AM

はかせさん、
どうも、はかせさんの高校時代と、私の高校時代は近いようですね。
私も、大学に入ってから、数学科の授業の内容見せてもらって、「こりゃ、数学に進まなくて良かった」と思ったものです。

「エレガント」ですが、私が直接、矢野健太郎氏の本を読んだ訳でありません。たしか、当時の数学教諭兼数学部顧問から「エレガント」と言う言葉を聞いたような覚えがあります。たぶん、その先生が矢野健太郎氏の本を読んでいたのだと思います。

Posted by: 野田篤司 | August 09, 2007 at 09:45 PM

>仲間を集めてワイワイ数学している
私の高校時代も同じです。
数学部というのは無かったが、数学好きは1クラスに1人もいないくらいだったから、非公式数学部みたいに集まってましたね。(化学部や物理部はあったから、その手づるで集まった)

Posted by: hirota | August 21, 2007 at 11:33 AM

hirotaさんも、高校時代、グループで数学していましたか?
どうも公式の数学部に所属していた人は少数でも、グループで数学していた人は、それなりに居そうですね。

hirotaさんは、大学も数学科でしたよね?
私の場合、逆に大学まで数学科に行った友人の方が少ないです。

Posted by: 野田篤司 | August 26, 2007 at 02:02 PM

大学まで数学科に行った人って、周りにはほとんど居ませんね。
大体、僕自身も数学がゴールじゃなく、科学全般の基礎固めの積もりでしたから、仕事で使える現状で充分てとこですが、大学で他の学科へ行った人の方が色んな数学をやってるのを見て、間違えたかな?と思ったりしました。(どういうわけか美人が多かったから OK 。もちろん、女性が多いのは生物や化学の方ですが)

Posted by: hirota | August 27, 2007 at 04:58 PM

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