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April 12, 2005

システムエンジニアリング(その3)

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イラストは、良く「バランスの取れた設計」の説明に用いられる例である。
水を入れる「桶」だが、板の長さがバラバラだ。この桶に溜まる水の量は、最も短い板の長さによって決まる。中の水位が、最も短い板の長さを超えたら水は溜まらなくなるからだ。

この桶を改善し、溜まる水の量を増やす方法は、簡単だ。最も短い板を長くすれば良い。
「バランスの良い設計」にすることも簡単だ。すべての板の長さを同じに切り揃えれば良い。(別に長すぎる板を切らなくても良いのでは?・と言う意見もあるかもしれない。だが、長すぎる板は重くなるし、持ち運びなどで邪魔になるから、同じ長さに切り揃えるのが最も効率的でバランスが良い)

実際の設計では、「改善する方法」も「バランスが良い設計にする方法」も、この例ほど簡単ではない。
一言で「バランスの良い設計」と言うが、どういう状態が「バランスの良いかどうか」分からない場合が大半だ。

イラストを見れば、一目で、「どうすれば改善できるか」「どういう状態がバランスの良い設計か」分かる。
仮に、この絵のような状態であることが見えないとしよう。その場合、手探りで、状態を調べるしか方法は無い。

そこで、次のような実験を行ってみる。
まず、取り敢えず、あふれるまで水を入れて、量を測る。次に、水を入れて抜き、桶を分解した後、Aの板の長さを少し変えて、再び、組み立てる。同じようにあふれるまで水を入れて、量を測ると、水の量に変化は無い。
次に、Bの板の長さを、少し変えて、同じことを試す。今度は、Bの板の長さを変えた分だけ、水の量が変化はすることが分かる。
C、D、Eの板にも、同様のことを繰り返し、これらの板の長さを変えても、水の量は変化しないことが分かった。

以上の事から、次のことが導かれる。
「桶に溜まる水の量は、Bの板の長さのみに依存し、ほぼ、Bの板の長さに比例する。A及びC~Eの板の長さは、桶に溜まる水の量に影響しない。」

この結果、「桶の改善」イコール「Bの板を長くする」に置き換えられる。
Bをドンドン長くして、他の板より長くなっても、気が付かない。先のような実験を行うことが面倒だからだ。
Bの板を、いくら長くしても水の量が増えなくなっても、目標が「Bの板を長くする」にすり替えられて居るから、構わずドンドン長くする。Bの板が邪魔になり、重くなって桶自体が持てなくなって、初めて間違って居たことに気が付く。

笑い話では無く、このような事が本当に繰り返される。例えば、40年くらい前の国産車は、明らかにエンジンの馬力が足りなかった。箱根の坂道さえろくに登らない。「馬力さえ上げれば、良い車になる」と国産メーカーはエンジンの馬力アップ競争になった。コンベンショナルなエンジンで、ほどほどの馬力がでるようになると、やれターボだのDOHCだのスーパーチャージャーだのインタークーラーだの付け加え始めた。サスペンションやタイヤの性能を超え、危険なほどエンジンの馬力が上がると、もはや「良い車」ではない。これが15年くらい前まで続いた。

前回の「システムエンジニアリング(その2)」から読んで居る人は、「Bの板の長さのみ注目」が「要素技術偏重」で、「桶の水の量に注目」が「システムエンジニアリング」に当たることが分かると思う。

システムエンジニアリング(その2)では、「当たり前の要素技術の組み合わせで、新しいシステム」と言ったが、全く新しい試み(例えば「恒星間飛行」)のシステム設計の場合、取り敢えず「バランスの悪い桶」でも良いから、作って評価することが大切だ。実際には作れないなら、計算上でもバーチャル上で代用する。

その結果、「Bの板を既存の技術では足りないくらい長くする」事が必須であることを見つけてから、「Bの板を長くする研究」を始めるのである。また、時々再評価し、「Bの板が他の板を超えた」場合は「Bの板を長くする研究」より、「他の板を長くする研究」に比重を置き換える必要がある。
また、「Bの板を長くする」事は改善案として出やすいが、「A及びC~Eの板の長さを短くする」と言う改善案は、なかなか実行されない。それなりに上手くいって居るものに、手を加えるのは恐いからだ。

「システムを良くするために、必要な要素技術を選び、研究する」のであって、「要素技術の改善が、システムを良くする」のではない。
ましてや、「要素技術の改善こそが全て」のではない。

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Comments

野田様、この「バランスの悪い桶」の例えとイラストを学会発表で使わせていただいても良いでしょうか?
 僕はロボット屋なのですが、ロボット開発の世界でも、「要素技術の改善こそすべて」と思い込んでいる人が結構多いもので・・・。

Posted by: 梶田秀司 | September 06, 2008 01:40 PM

梶田様、
この「バランスの悪い桶」の絵は、良く使われているので、特に私にオリジナルがあるわけではないです。文章の内容である「要素技術の改善こそすべて・・ではない!」は私のオリジナルですが。
いずれにしても、梶田様が学会等で使っていただいて結構です。何か良い反応がありましたら、教えてください。

Posted by: 野田篤司 | September 07, 2008 07:47 AM

有難うございます!講演会での反応は追って報告させていただきます。

Posted by: 梶田秀司 | September 07, 2008 09:40 AM

野田様、
ロボット学会のセッションで話をした内容が、ネットニュースになりました。
RobotWatch:2050年のロボット活用社会に向けて
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/09/22/1304.html

こちらで、「要素技術偏重の落とし穴」として野田様のイラストも紹介されています。(私が小細工を加えてますが・・・)
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/parts/image_for_link/41274-1304-14-1.html

この桶の話は、リービッヒが植物栄養素について議論した「リービッヒの最小律」が最初のようですね。Wikiペディアでは「ドベネックの桶」と呼んでいますが、海外サイトだと"Liebig's barrel"と呼ばれることが多いようです。

Posted by: 梶田秀司 | September 23, 2008 02:25 PM

梶田様、有難うございます。
良く使っておきながら、恥ずかしながら、この「桶」の正式な出典、知りませんでした。
19世紀からあるのですね。
今後ともよろしくお願いします。

Posted by: 野田篤司 | September 28, 2008 07:37 AM

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