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April 17, 2005

遠近法が通用しない!?

e0050
仕事柄、科学者の人と話をする機会が多い。
宇宙は誕生して、約130億年程度経っているらしい。遠くを観測する事は過去の宇宙の姿を観ることに等しい。光は一年で一光年進むので、130億光年の彼方を観ることは、130億年の過去を観ることと同じだ。
宇宙は膨張して居るので、遠くの光ほどはドップラー効果で波長が長くなる。誕生直後の宇宙は光が通らないほどの密度が高いので、現在は観測することができない。宇宙誕生から10万年ほど経ち光が直進できる程度まで密度が下がった頃の光が、現在はドップラー効果でマイクロ波として観測できる。
最初の頃の宇宙は、ほとんど水素とヘリウムでできている。その水素とヘリウムが集まって、最初の星が生まれるのだが、そのプロセスは良く分かって居ない。何故なら、最初の星や銀河が誕生した頃の光は、ドップラー効果で長い波長の赤外線になっているのだが、地球の大気は長い波長の赤外線を通さないからだ。
大気が通す波長で観測できるのは、宇宙誕生から10億年以降の宇宙だが、その頃の宇宙には、たくさん星や銀河が既に誕生した後である。
どうしても、最初の星や銀河が誕生した頃を観測したければ、地球の大気の外側に出るしかない。つまり、人工衛星で観測する訳だ。

私は人工衛星のシステムデザインが専門なので、どう言った望遠鏡が要るのか、その科学者に聞いてみた。
「できるだけ、大きな口径の望遠鏡が欲しい。」
「どう言った理由で、大きな口径の望遠鏡が欲しいのか?」
「遠くの光は、弱いので、それをたくさん集めるためだ。」
確かに分かりやすい理由だ。
だが、一般的に大口径光学系の利点は、それだけではない。カメラや天体観測が趣味の人なら判ると思うが、高い金を出してでも、大口径のレンズや反射鏡が欲しいのは、以下の2点だ。
(1) 暗いときでも明るく撮れる(暗い星でも明るく見える)
(2) 解像度が良い(倍率を高くできる)
(カメラの場合、「ボケができる」もあるが、この場合関係ない)
上記の回答は (1) と同じだ。だが (2) の理由もある筈だ。そう思って、私は促した。
「ものすごく遠くを観測するのだから、倍率を上げなければならないのでは?」
「いや、遠くに行けば行くほど小さく見えるのは、50億光年位までで、それ以上遠くなっても、物は小さく見えなくなる。」

「遠くの物が小さく見えないだって!?」

私は、絶句した。
遠近法が通用しなくなる・・・一体何故??

遠近法とは、イラストで青色の線で示したように光が真っすぐに進むために遠くの物が小さく見える現象だ。
だが、赤い線で示したように、光が曲がって進めば、必ずしも遠くの物が小さく見える訳ではなくなる。
我々の宇宙では、ごく近い範囲(と言っても50億光年だが)では、近似的に光は直進して居るように見えるが、約130億年の大きさで見ると、曲がって進んで居るのだろう。

正確に言うと光が曲がって進むのではなく、空間が曲がって居て、その曲がった空間に沿って光が(局所的に)直進するため、全体としては光が曲がったように見えるのだ。
だから、イラストの赤い線のように空間が曲がって居ると考えるのが正しいのだろう。もちろん、空間の曲がりは二次元でも無ければ、三次元でも無く、四次元的に曲がって居る。
この空間の曲がりは、宇宙全体の質量によって起こって居るのか、宇宙が膨張するせいで起きて居るのか、私の知識では良く理解できない。(たぶん、「宇宙全体の質量」でも「膨張宇宙」でも同じ事なんだと思う。一般相対論で説明付くのだろうから、式でも立てれば良いのだろうが、自信が無い)

分からないなりに、いい加減な説明用イラストを描いてみた。
e0051
このイラストは、一番下に宇宙が誕生した瞬間を、上部中央に現在を示した。時間は、過去から未来に、イラストの中では下から上に流れて居る。
青い線は、宇宙の果てであり、膨張宇宙だから、時間と共に大きくなって居る。
赤い線は、大昔、宇宙誕生のすぐ後の光が、現時点まで来る経路を示したモノだ。途中幾つかあるひしゃげた三角錐は、詳しい説明は省くが、各々の時点での空間や時間の方向性を示すモノだ。
それぞれの三角錐は、外側に向かって歪んで居る。これこそ、宇宙が膨張して居る状態だ。これらの三角錐の内側の辺に沿って、赤い線が曲がって進む。
このように、光が曲がり、遠くのモノが小さく見えなくなる。

元々、誕生して10億年の宇宙は、大きさも半径10億光年ほどしかない(インフレーション宇宙論とか、膨張宇宙論にも色々なモデルがあるため、誕生からの年数と大きさは必ずしも比例しない)が、約120億光年の彼方の全天に広がって見える。その理由も、このイラストで説明できる。

と、まあ、これで何とか説明できたと思うのだが、本当にあっているのかなと、自信は無い。
そもそも、半径10億光年の大きさしか無い宇宙の光が、地球に届くのに約120億年もかかってるのだが、それで良いのだろうか?
(説明が間違って居たらコメント下さい。正直、自信は無いので)

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Comments

「遠くのものが小さく見えない」とは、面白いですね~!
でも、膨張宇宙で光が曲がる図はダメですね。

光円錐の傾きが変化してますが、静止した観測者から見た光は常に光速で、光円錐の傾きも変わらないはずです。
つまり、観測者が受ける光は対象物の運動に関係なく、観測者を頂点として過去に広がった光円錐上の星から出た光で、平坦な空間である限りまっすぐ広がりますから、遠くて過去のものはヤッパリ小さく見えます。

ついでに言えば、「膨張する宇宙の果て」というのも間違いです。
現在の観測結果では、宇宙は加速膨張してますから、いま見える距離の場所も将来は光速を超えて地平線の外になり、「宇宙の果て」は近づいてしまいます。
つまり、「膨張する宇宙の果て」と言えるのは減速膨張の時期だけで、その場合には超光速で遠ざかってた距離の場所も光速以下に減速して地平線内に入り、「宇宙の果て」が遠ざかります。

さて、現在の観測結果では宇宙は平坦だと分かっていますから、遠くて過去のものはヤッパリ小さく見える事になるのですが、あくまで現在の宇宙が平坦という事だけですから、過去がどうだったか問題になります。
現在、宇宙が加速膨張してるのは「暗黒エネルギー」による斥力が物質重力より大きいからですが、この斥力は宇宙が膨張しても変化しないとか読んだ覚えがあります。
しかし、物質重力の方は宇宙が小さいときのほうが大きかったはずですから、過去には減速膨張の時期があったはずです。(さらに昔のインフレーション膨張の時期は指数関数的に猛烈な加速膨張だった)
そうすると、重力優勢なら宇宙空間の曲率は正に傾くでしょうから、昔の光は凸レンズで拡大されると言うことになります。

しかし、そんなことで曲率が変わるもんなのかね?
これは相対論だけじゃ分からんから、自分の言ってる事も信用できないな?

Posted by: 広田正夫 | April 26, 2005 at 02:10 PM

さっき、広田さんと会ってきました。
http://homepage3.nifty.com/iromono/hardsf/warp.html 「前野[いろもの物理学者]昌弘ホームページ」「ハードSFのネタ教えます」「なんと、ワープです」の図2を見ながら、もし「宇宙が膨張しているなら光円錐の傾きが外に傾く」のなら、「私の描いた図」のように、光円錐の傾きが変化し、光が曲がることを納得してもらいました。
問題は、本当に「宇宙が膨張しているなら光円錐の傾きが外に傾く」のかどうかです。これには、私も広田さんも自信がありません。宇宙論を良く知っている人教えてください。

なお、広田さんの指摘の「膨張する宇宙の果て」の記述については、実は判っていながら説明が長くなるので、さらっと書いておいたことを白状しておきました。

Posted by: 野田篤司 | April 26, 2005 at 08:14 PM

いやー、野田さんの説明を聞いたら私の考えも浅はかだった!
私は、宇宙膨張を単に「天体が飛び去って行く」としか思ってなくて、時空間自体が変化することは無視していたんですよ。
「天体が飛び去る」だけなら、静止してる観測者には飛び去る天体にも静止した光円錐しかないと思ったんだけど、時空間が変化してたら分からない。
こりゃ、ちゃんと宇宙膨張を一般相対論で扱わないとダメですね。
宇宙膨張方程式自体は簡単な方程式だったはずだけど、その後どうすりゃ良いんだ?
だれか計算して下さい。(他力本願)
平坦宇宙に広がって行く座標を入れるだけなら簡単なんだけど。(インチキ)

Posted by: 広田正夫 | April 27, 2005 at 07:55 PM

今月号(2005年6月号)の日経サイエンスに膨張宇宙の事が載っています。
その中に「膨張宇宙とは、単に天体が遠ざかっているのではなく、空間そのものが膨張している」旨の事が書いてあります。
ただ、「宇宙の年齢が約140億年だからと言って、半径約140億光年の範囲しか見れないわけではない。その約3倍の範囲が見れる」と書いても居ました。この部分は、私も勘違いしていましたし、私の記事も間違った記述をしていますね。(ちゃんと理解できたら書き直します)

Posted by: 野田篤司 | April 30, 2005 at 10:20 AM

宇宙年齢が140億年でも、400億光年の範囲が見れるって、その距離の意味は何だろね?
「現在400億光年の所からの光が未来に届く」なのか、
「現在400億光年離れてる天体が過去に居た所からの光が今届く」なのか、
どっちの方なんだろう?

そんな事を考えてたら、「遠くのものが小さく見えない」の「遠く」の意味だって分からなくなってきた。
これって、宇宙論とか一般相対論とかの問題じゃなく、単なる特殊相対論の「ローレンツ短縮」の意味じゃないの?
現在観測されてる天体の距離は観測可能宇宙の1/10くらいでしかないけど、それでも膨張のドップラー効果で波長が数倍にもなってるから、さらに遠くなるとローレンツ短縮で見た目の間隔が縮まって、遠くに見えないってことなんじゃないかな?
距離の意味しだいだけど?

Posted by: 広田正夫 | June 02, 2005 at 12:37 PM

コメントが遅れて申し訳ありません。
正直、私も良く判っていません。
一度、時間をかけて話し合いましょう。。

Posted by: 野田篤司 | June 12, 2005 at 10:48 AM

野田様。いつも日記を楽しみにさせていただいています。
先日「距離が遠くても天体の見かけの大きさはそれほど変化しない理由」のトラックバックを送信したものです。

当該記事では、単純な遠近法ではないかと書きましたが、その後、改めて検証した結果、宇宙論的な効果を考慮すると「星像の拡大効果」がちゃんと現れることを確認しました。
http://www.lizard-tail.com/isana/lab/redshift/redshift-distance.php

一言で言えば、宇宙の膨張が視線方向(赤方偏移)だけでなく、視線と直角方向にも影響を与えるために、星像が広がって見える、という解釈になるでしょうか。これが、「光円錐の傾きが外に傾く」ことを意味しているかどうかはちょっと分かりません(意味しているような気もします)。

また、広田さんがおっしゃっている「宇宙年齢が140億年でも、400億光年の範囲が見れる」という文言は、「ビッグバンの瞬間の光は地球に届くのに140億年かかるが、その間に宇宙が膨張し、光がたどってきた経路(空間的な実際の距離)は400億年に伸びている」と言い換えられると思います。

参考)
http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/~taka/lectures/cosmology/
http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/~taka/lectures/cosmology/webfiles/cosmology-web/node19.html

大変失礼しました。修正記事アップ後に、改めてトラックバックさせていただきます。

Posted by: 柏井勇魚 | June 14, 2005 at 04:25 PM

柏井さん、情報ありがとうございます。

宇宙論入門の説明を読んだところ、距離というのはロバートソン・ウォーカー計量(RW計量)での t = 現在時刻 の距離ですね。
遠距離天体の見掛けの大きさが小さくないのは、天体が光を出した時の実距離が近いからだと分かりました。

そして、光円錐が宇宙膨張で外を向くかについては、RW計量が

 ds2 = ー c2 dt2 + a2(t) dx2 + …

( a は時間とともに増大するスケール因子) なので、ds = 0 の光伝播は実距離 ax の変化にすると

 d(ax)/dt = x da/dt + a dx/dt = x da/dt ± c

となって、まさしく宇宙膨張 x da/dt に引きずられてます。
というわけで、最初の野田さんの説明が正しいと分かりました。

しかし、これを空間自体が膨張してると言い切って良いものかな~?

なにしろ、RW計量を求めるための「ワイルの要請」てのは空間に一様に物質粒子を置いて、それが一斉に離れていく
( こういう設定が必要だろうと思ってたが、名前が付いてるとは知らなんだ ) というものだから、「物質が遠ざかっていく」としか思えない。

まあ、時空間は物質の運動で決まるんだから、時空と物質のどちらが先か問題にしても意味はないけど、
これを「空間自体が膨張してる」と言うのは、単純なニュートン力学での物質運動とは違うと思わせたいためのレトリックじゃないのかな?(ただのグチ)

あと、これを読むと、いまだに負曲率の場合を「開いた宇宙」なんて言ってるけど、
こういうものはナカナカ改訂されないもんだな~。

Posted by: 広田正夫 | June 21, 2005 at 12:59 PM

柏井勇魚さん、貴重な情報有難うございます。

広田さんと直に会って、話をしました。柏井勇魚さんの教えてくれたホームページの中のロバートソン・ウォーカー計量から、私が最初に描いたイラストが説明できそうです。まだ、完全に理解はしていませんが、式を眺める限り、なんとなく理解できたような気がします。

今回の「遠近法が通用しない!?」は、私にとっても、色々と勉強になる話題でした。
最初の「直感的な理解」が大筋正しいものであったことが嬉しいです。ただ、幾つか、誤解していたところもあり、今、読み返すと厳密には正しくない記述があり、いずれ、時間を見て、修正したいと思います。

本当に、まだまだ、面白いことが一杯あって、楽しいものだと思います。

Posted by: 野田篤司 | June 22, 2005 at 09:06 PM

野田さんに、天体が光を出したときの距離と観測時に見える大きさとの関係を説明する図をメールで送ったんですけど、やっぱり埋もれてるようですね。
メールで連絡取れないなんて不便だな~。

Posted by: 広田正夫 | July 01, 2005 at 06:12 PM

おお、すっかり、忘れていました。
(ここ、二週間くらい、本業が忙しくて、忙しくて・・・)
絵を見て、良く分からなかったので、聞きに行こうと思っていたのです。

近いうちに行きますので、よろしく・・・

Posted by: 野田篤司 | July 04, 2005 at 06:39 AM

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